パンツ

From:眞田

彼女がふと見せた表情で、ああ、僕らの関係はもう終わりだな、と悟ることがある。

パンツと別れるときも、そんな感じだ。

腰への締め付け具合で、別れの時期が来たことを悟るのである。周りから見たら、僕らは仲の良い、お似合いのカップルに見えるかもしれない。でも、長年一緒にいたからこそわかる。僕らはもう、終わりだ。

関係を修復したい気持ちがないわけではない。これまで一緒に過ごした時間はとても心地よかった。でもどんなに話し合っても、気持ちを切り替えようとしても、今の関係がよくなることは決してない。どれだけ頭を捻っても、結論は同じだ。そのことが、僕を一層悲しくさせる。

「別れよう」その言葉を口にした瞬間、関係が終わるのはわかっていた。できれば言いたくはない。現に今の生活に不満があるわけではないのだ。「別れるのは今日じゃなくていい。また今度にしよう」。別れの言葉を飲み込んで、いつもと同じようにパンツに接するようにした。

数か月後

まだ僕は惰性でパンツとの関係を続けていた。もちろん、二人の関係に改善や発展があったわけでもない。悪くもなっていない。現状維持である。しかし、このままではいけない。お互いのためには、それぞれの道を進んで、新しい未来を切り開くべきなのだ。答えは初めからわかっていた。別解はない。もうこれ以上結論を先延ばしにするのではなく、結論を出さなければならない。

僕は決心し、パソコンを開いた。そしてユニクロオンラインストアにいき、新しいパンツをたくさんカートに入れた。「これからは新しいパンツと人生を歩んでいくよ。 カチッ」

数日してユニクロからパンツが届いた。新しいパンツのツヤ、ハリ、ともに最高である。若さは正義、と誰かが言っていたが、それを肯定したい気持ちになった。

「さてと・・・」

僕は今、これから人生を共に歩んでいく新しいパートナーを出会った。そしてこれまでのパンツはゴミ箱に捨て別れを告げなくてはならない。

「今までありがとう。さようなら」そう言いながら、パンツを手に取ると、これまでの思い出がよみがえってきた。「沖縄に旅行いったときはこのパンツだったか」「うんちを漏らした時、しっかりうんちを受け取ってくれたのはこのパンツだったなあ。おかげでズボンにはノーダメージだったけ(←そんなパンツ捨てろよ)」一緒に過ごした時間が長い分、思い出もたくさんある。

・・・。

本当に、これでいいのか?

確かに、腰への締めつきは以前より緩くなったかもしれない。でも気になるほどのものではないだろう。色落ちだってしていない、生地もヘタっていない。仮に新垣結衣さんとデートがあったとして、このパンツを履いていけるかと言ったら・・・いける。やはり自分は厳しすぎたのではないか・・・。

僕はこれまでのパンツをそっとタンスに戻し、新しいパンツを段ボールのまま押し入れの奥にしまった。

僕はまだ、これまでのパンツを履いている。

【完】