床屋さん

From:眞田

私は1か月に1度、車で1時間かけて遠くの床屋さんに通っています。

遠くの床屋さんに通うようになったのは、何を調べていたかわからないですが、偶然そこのホームページを見つけたのがきっかけでした。そのホームページから、大らかそうな、優しそうな、細かなところまで気配りができそうな、そんなイメージが伝わってきて、自分好みの方だなあ、と通うようになりました。

実際にいってみると、私が想像していたような方で、私と感性が非常に似ているのを感じました。床屋のお兄さんも「ホームページをご覧になって来てくださるお客様は自分に合う方が多いです」とおっしゃっていましたし、ホームページをうまく利用して引力をうまく働かせていました。

しばらく通ってみると、お兄さんは商売が下手な気がしてきました。自分なりにいくつか改善点が浮かんできたので、こんな風にしたらもっと売上が上がると思うけど、と伝えたら「もちろん、売上は多い方がいい決まっている。お金はたくさんほしいのが本音。でも、売上を求めるあまりに『こいつはお客を金でしか見てないのか』と思われるのはマイナスでしかない。信頼関係を築いて、長期的にリピートされ支持される床屋でありたい。」その言葉を聞いて、やっぱりいいなあと思ったのでした。

これは、塾でも同じことです。仕事だから売上を上げなくてはならない。また塾にたくさん通ってもらった方が成績を上げやすいことも事実。でも「成績を上げるためだから」といろいろと講座を用意してアップセルすると、「この塾は成績を上げたいのではなくて、お金が欲しいだけではないか」と思われてしまう可能性があります。

もう少しいうと、私個人的な考えでは「お金が欲しいだけではないか」とお客様に思われること自体は別にいいのです。問題なのは保護者様に不信感が生まれてしまった場合に、うまく生徒に成果を出してあげられなくなってくることです。

これまでの経験上、生徒の成績が上がっていくケースでは、保護者様が塾を信頼してくださっていることが多いです。成績が全然上がらなかったとしても、保護者面談にお越しくださり、現状把握に努め、これからどうしていったらいいのかを一緒に考え、一緒に対応してくださる。だからこそ成績が上がりやすいのだと思いますが、そんなに人は簡単に変わるわけではないので、明確な変化を感じるまで年単位で時間がかかることもよくあります。その変化を求めていこうとしたら、信頼関係の基礎がないと難しいですね。

かといって塾は労働集約型の仕事だから、お客様のために、と何でもかんでもやるのも疲弊してしまい継続できなくなります。高いと思われるならそれは仕方ない、と割り切れるところを自分なりにバランスを考えることが大事だと思っています。

他にも、そこの床屋さんのすごいところがあります。私はもう何年も通っていて、世間話、仕事の話をたくさんしてきたのですが、一度も「お仕事は何されているんですか?」と尋ねられたことがありません。

この前、とうとう私から「僕、もう5年以上はここに通っていると思うんですけど、仕事を何しているか、一度も聞いてこないですよね」と言ったら、「これまで会話してきて、眞田さんは仕事を何しているか聞かれたくない方だと思ったので」と笑っていました。

そうなのです。私は仕事について聞かれたくないのです。塾をやっていることは隠しようがないから、塾を家族に知られるのは仕方ないですが、隠せるものは隠しておきたい。私の親も聞いたところで答えるわけがないことをわかっているので、お前は何をやっているのかとかいろいろと聞いてきません。

そのことを会話の中で察した床屋さんはさすがです。ここまで配慮できる人はなかなかいません。席に着くなり「お仕事何されているんですかぁ?」とすぐ聞いてくるキャバ嬢とはレベルが違います。こんな配慮ができる方は、床屋のお兄さんと私が(勝手に)師事しているお師匠さんくらいです。

師匠にも言ってはいませんが、こいつは仕事について聞かれたくないタイプだ、と察してくださって、人と引き合わせてくださるときには「こちら、悪徳会社の眞田さんです。」と紹介してくださいます。師匠も仕事について言わない人なので、というか、全体的に秘密主義者なので私の気持ちが理解できるのだと思います。日本でも資産がトップクラスにある人はリスク管理として、言わない、秘密にしておく、必要があるそうです。ま、そりゃそうですよね。秘密保持の重要性は何度もしつこく繰り返し教えられています。

またまた話が逸れていきますが、以前、生徒のお母さんでご主人が東京で単身赴任されている方がいらっしゃったのですが、お母さんは保護者面談で塾に来るたび、「この先生は主人と考えがそっくりだなあ」と思っていたそうです。私は私で、お母さんからお父さんの話を聞いたりしたときに、何だかお父さんと似ているなあと思っていました。

どんな話の流れだったか忘れてしまいましたが、私が「どんな仕事をしているのか、家族であっても言いたくない」と言ったらお母さんが「うちの主人もそうなんです!子供にはもちろん、妻である私にもはっきりとは言わないんです。でも、家族にも言わないって何でですか?普通、妻には言うものではないんですか?先生は主人と考えがそっくりなので、主人の気持ちもわかるはず」と驚いていました。

なぜ言わないのかって、ねえ・・・こちらからしたら、何で言わなきゃいけねえんだよって感じです 笑。何でいいたくないかは、私とそのお父さんで理由は違うような気がしますが、人それぞれ理由があるのです。

この人は仕事について聞かれたくない人だと悟って配慮できる人にはこれまでほとんど出会ったことがないので、私にとってはその床屋さんは唯一無二の存在であり、他に行こうとは思えません。おそらく他にいったら今の床屋さんのレベルが高すぎて、サービスの質に落胆してしまうと思います。

高レベルなサービスを提供してくださるならば、私もよい客でなければならないと思って、誠実な行動をしようと心がけています。床屋さんにいったときは必ず来月の予約を入れて、都合が悪くなったら早めに予定変更の連絡を入れて(キャンセルが直前になったら、他のお客さんを入れることができず、時間が死んでしまいます)、予約時間は営業開始時間の8:30にして(中途半端な時間に予約を入れたら、その前後にお客さんを入れることができずに、時間が死んでしまう可能性があります)、床屋さんからセールスをかけてこないから、こちらから積極的にサービスを申し込んで(男のくせに今や3時間も床屋さんにいて理容、美容のサービスを受けまくっているという 笑)、自分自身も唯一無二の客にならないといけないと思っています。

またまたまた話がそれてしまいますが、これを今書いていてふとお伝えしたくなったことがあります。この塾は、中学生は都合が悪くなったら振替しますよ、と伝えているにもかかわらず、授業日にしっかりとお子さんを通わせてくださる保護者様が何名かいらっしゃいます。こんな日は別日に振り替えてもいいのに、と思うときも塾に送ってくださる。約束通りにきっちり通うのが当たり前、というその気持ちが私は非常にうれしいです。ありがとうございます。本当に自由に通ってもいいとこちらが思っているなら、そもそも通う曜日を設定しませんからね。でも、もう十分お気持ちは伝わっていますから、難しい日はおっしゃってください。

で、思ったことをどんどん書いてまとまりがないですが、私の通う床屋さんは素晴らしいと言いたいだけでした。「理容、美容の業界は、自分を含めて、学歴が高くない人がやっていることが多い。だから、とは言いたくないがサービスの質が低かったりする。そういう業界にいるからこそ、自分はいいサービスを提供できるように頑張っていきたい」とおっしゃっていました。

今や、1,000円カットのお店もたくさん増えてきて、そういった店で済ましてしまう人が増えているにもかかわらず、私の床屋さんは予約でいっぱいです。安さを求める人もいれば、私のように、床屋さんの「思想」を求める人もいる。床屋さんも重々わかっていることですが、1,000円カットに通う客を自分のお店に取り込もうとすると、今の客は離れていってしまうでしょう。あらゆる人に支持される必要はない、というかそんなに多くの客は必要ないので、ごく一部の方に支持される、床屋さんの思想を体現したお店をこれからも追及していってほしいです。